自己とは何か──キルケゴールに関連して

  • 時間

    113
  • 音質

    第38回大学共同セミナーで講演。
    テープ劣化のためノイズが多く、
    音質はよくない。

  • 講演日時:1971年5月30日
    主催:大学セミナーハウス
    場所:新宿・紀伊国屋ホール
    収載書誌:弓立社『敗北の構造』(1972年)




結婚して子どもを生み、そして子どもに背かれ、
老いてくたばって死ぬ、そういう生活者を
もしも想定できるならば、
そういう生活のしかたをして生涯を終える者が、
いちばん価値がある存在なんだ──人間存在の
価値観の規準はそこにおくことができると、
僕は考えました。
だから、もっとも価値ある生き方とは何かと問われたとき、
日々繰り返される生活の問題以外には
あまり関心を持たないで、生まれて老いて死ぬという
生き方がもっとも価値ある生き方だ、
というほかはありません。
どんな人間でも、大なり小なりその規準からの逸脱として、
食い違いとして、生きていくわけですが、
キルケゴールなんかには
ぜんぜん関心がないという生き方は、
もっとも価値ある生き方だということができます。